HPVワクチンの種類による違い
2022年4月より、中断されていた小学校6年生~高校1年生の女性への積極的なHPVワクチン接種呼びかけが再開されました。
また、2022年8月には、厚生労働省がHPVワクチンの男性への無料接種も可能になるよう検討を進めていることを発表しました。近い将来、男性への定期接種も実現していく可能性が高まっています。
今回は現在日本で接種可能なHPVワクチン3種類の違いを中心に、詳しく解説していきたいと思います。
目次
- 女性へのHPVワクチン無料接種の歴史
- HPVが関与する病気は子宮頸がんだけではない
- HPVワクチンの種類による違い
- 海外では男性もHPVワクチンが定期接種になっている
- 男女共にHPVワクチンが無料接種になることで可能になる未来は
1、女性へのHPVワクチン定期接種の歴史
HPVワクチンは2013年4月に、小学校6年生から高校1年生の女性への積極的な接種の呼びかけが開始されました。しかしその後『副反応問題』によって、同年6月から接種の積極的な呼びかけが中止されました。その影響で日本での接種率は1%未満にまで落ち込んでいました。
日本で問題になった運動障害や疼痛などの副反応は、WHOワクチン安全諮問委員会の解析でも、ワクチン接種者とそうでない人とで差はなかったとなっています。日本国内でも、同様のデータが複数得られたことから、接種の有効性が副反応のリスクを上回ると判断され、2022年4月に積極的な接種の呼びかけが再開されました。
2、HPVが関与する病気は子宮頸がんだけではない
HPVが関係しているがんとして有名なのは、女性の子宮頸がんですが、それ以外にも中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどが報告されています。その為、男性のHPVワクチン接種は、女性へ移さないというメリットだけでなく、男性自身ががんにかかるのを予防するというメリットもあります。
それ以外にもHPVは、尖圭コンジローマの原因ウイルスでもあります。尖圭コンジローマは、男女ともに感染すると性器の周りにイボが出来る性感染症で、軟膏による薬物治療や、外科的治療が必要になります。こちらに関しても、4価のガーダシルや9価のシルガードであれば、予防することが出来ます。
3、HPVワクチンの種類による違い
日本で現在定期接種出来るのは、『サーバリックス』と『ガーダシル』の2種類のワクチンです。どちらのワクチンも対象の年齢であれば公費で接種できます。
また定期接種の対象ではありませんが、『シルガード9』も、2021年2月より日本でも接種が可能になりました。海外ではシルガード9が主流となっており、今後日本でも定期接種の対象になる可能性が高いと考えられます。
上記3種類の違いについて、表にまとめます。
|
サーバリックス |
ガーダシル |
シルガード9 |
国内発売 |
2009年12月 |
2011年8月 |
2021年2月 |
女性への接種 |
〇(定期接種) |
〇(定期接種) |
〇(自己負担) |
男性への接種 |
〇(自己負担) |
〇(自己負担) |
×(接種不可) |
予防するHPVの数 |
2種類 |
4種類 |
9種類 |
予防するHPVの型 |
16・18 高リスク型がん関連 |
16・18 高リスク型がん関連 6・11 低リスク型 尖圭コンジローマ関連 |
16・18・31・33・45・52・58 高リスク型 がん関連 6・11 低リスク型 尖圭コンジローマ関連 |
子宮頸がん予防効果 |
60~70%以上 |
60~70%以上 |
90%以上 |
尖圭コンジローマの予防効果 |
× |
〇 |
〇 |
接種回数 |
3回 |
3回 |
3回 |
接種間隔 |
1回目の接種から1か月後に2回目 1回目の接種から6か月後に3回目 |
1回目の接種から2か月後に2回目 1回目の接種から6か月後に3回目 |
1回目の接種から2か月後に2回目 1回目の接種から6か月後に3回目 |
副反応 10%以上
|
掻痒、疼痛、発赤、腫脹、胃腸症状(悪心、嘔吐、下痢、腹痛)、筋肉痛、関節痛、頭痛、疲労 |
疼痛、紅斑、腫脹 |
疼痛、腫脹、紅斑 |
副反応 1~10% |
発疹、蕁麻疹、硬結、めまい、発熱、上気道感染 |
頭痛、搔痒感、発熱 |
発熱、掻痒感、出血、熱感、腫瘤、知覚消失、頭痛、感覚鈍麻、悪心 |
副反応 0.1~1% |
知覚異常、感覚鈍麻(しびれ感)、全身脱力 |
四肢痛、筋骨格硬直、四肢不快感、硬結、出血、不快感、内出血、変色、知覚低下、熱感、倦怠感、白血球数増加 |
四肢痛、腹痛、下痢 |
副反応参考資料 |
添付文書第14版(2022/2月改訂) |
添付文書第2版(2021/8月改訂) |
添付文書第4版(2021/11月改訂) |
シルガードとガーダジルは、子宮頸がんの予防という観点では、差はありません。
違いは、尖圭コンジローマの原因ウイルスであるHPV6・11型が予防できるかどうかです。
子宮頸がん予防という意味では、シルガード9が現段階では最も高い予防効果があります。
理由は、シルガード・ガーダシルでは予防できないハイリスク型のHPV31・33・45・52・58型の感染も予防できるからです。いずれは日本でもシルガード9が定期接種になるとは言われていますが、いつになるかわかりません。その為、定期接種になるのを待つというのは、得策ではありません。推奨される時期に定期接種の対象であるシルガード・ガーダシルを打つか、もしくは値段の問題はありますが、シルガード9を自費で打つことをお勧めします。
4、海外では男性もHPVワクチンが定期接種になっている国もある
オーストラリアは、世界的にもHPVワクチン接種率が高い国です。早くから男性も定期接種の対象となっており、現在は男女共に9価のシルガードが定期接種となっています。その為、オーストラリアでは、2028年までに子宮頸がんの罹患率は撲滅の閾値を下回ると推計されています。
5、男女共にHPVワクチンが定期接種になることで可能になる未来は
オーストラリアの例を見てもわかるように、男女共にHPVワクチンが定期接種となり、接種率が上がって行けば、子宮頸がんは排除できる可能性が高い疾患です。
様々な種類のがんの中で、予防できる『がん』は一部に過ぎません。
予防できる『がん』である子宮頸がんで亡くなられている方が、日本ではまだ年間で約3000人いらっしゃいます。HPVワクチンを適切な時期に打つことで、これだけの命が助かる可能性があるのです。
今回の記事が、HPVワクチンを正しく知るきっかけになれば幸いです。
尚、日本産婦人科学会のホームページにより詳しい情報が掲載されていますので、もっと詳しく知りたいという場合には、併せてご覧頂ければと思います。