妊娠中に魚介類は摂取してよいか
妊娠された方から『お刺身は食べていいですか?』という質問をよく受けます。
誰かから聞いて辞めた方がいいということはわかっているけれど、なぜダメなのかはよくわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、妊娠中のお刺身の可否と、それに付随して魚介類全般を食べる上で注意して欲しいことを説明したいと思います。
目次
1,妊娠中はお刺身を避けた方がいいか
結論としては、妊娠中はお刺身を食べるのは控えた方がよいでしょう。
なぜなら、食中毒を起こす危険性があるからです。
妊娠中は、免疫力が低下しているため、普段よりも食中毒になりやすい状態となります。
生のお魚には、リステリア菌、ノロウイルス、腸炎ビブリオ、アニサキスなど、食中毒を起こす原因となる細菌や寄生虫が潜んでいる可能性があります。
これらの菌は加熱により死滅しますので、しっかり加熱した状態であれば、感染のリスクはほとんどありません。
2,お刺身を食べて食中毒を起こすとどうなる?
食中毒を引き起こすと、腹痛、吐き気・嘔吐、下痢などの症状が出現し、子宮収縮を誘発してしまう原因となります。
また妊娠中にリステリア菌に感染した場合には、リステリア菌が胎盤を通過し、赤ちゃんへ感染してしまうリスクもあります。
実際に妊娠中にリステリア菌に感染した症例を集めた報告では、1/5が流産もしくは子宮内胎児死亡。
分娩に至った児の7割に新生児リステリア感染症が認められ、肺炎・敗血症・髄膜炎を引き起こし、治療したにも関わらず、1/4が死亡、1割に神経学的な後遺症を認めたと報告されています。
以上の理由から、妊娠期間中は、お刺身を食べるのは控えた方がいいでしょう。
ただし、妊娠中にお刺身を食べてしまった場合でも、食中毒の症状が出ていない場合には、大きな問題にはなりません。
今後は気を付けるようにしましょう。
3,魚介類からの水銀摂取の問題点
魚介類にはいずれも微量の水銀が含まれていますが、その量は魚介類によって異なります。
健康な成人であれば問題ない量の水銀であっても、胎児は水銀への感受性が高いため、胎児の中枢神経系(脳)の発達に影響することがわかっています。
妊娠中は、水銀の含有量が多い魚介類の摂取には注意が必要です。
4,水銀が多く含まれている魚介類
魚介類に含まれている水銀の量は、食物連鎖の影響により大型の魚になればなるほど多くなります。
バンドウイルカ・キンメダイ・メカジキ・クロマグロ・マッコウクジラなど、大型の魚ではその量が多くなり、イワシ・アジ・カツオ・ブリ・サンマ・イカ・タコ・ツナ缶や小さめな魚などは、特に注意が必要ないとされています。
妊婦が注意すべき魚介類の種類とその摂取量の目安
1回80gとして2か月に1回まで (1週間あたり10g程度) |
バンドウイルカ |
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1回80gとして2週間に1回まで (1週間あたり40g程度) |
コビレゴンドウ |
1回80gとして週に1回まで (1週間あたり80g程度) |
キンメダイ メカジキ クロマグロ メバチマグロ エッチュウバイガイ ツチクジラ マッコウクジラ |
1回80gとして週に2回まで (1週間当たり160g程度) |
キダイ マカジキ ユメカサゴ ミナミマグロ ヨシキリザメ イシイルカ クロムツ |
参考文献:厚生労働省 妊婦への魚介類摂取と水銀に関する注意事項
1人前の魚の重さは約80gであり、切り身1切れが目安となります。
具体的な摂取方法に関しては、厚生労働省から発行されているパンフレットにイラスト入りでわかりやすく示されているため、参考にして下さい。
051102-2a.pdf (mhlw.go.jp) お魚についてしっておいてほしいこと 厚生労働省
どこかの週で目安の摂取量を超えてしまったからと言って大きく心配する必要はなく、目安より多く摂取してしまった場合には、翌週の摂取量を減らして調整すれば問題ありません。
5,妊娠中は魚介類の摂取を控えた方がいいか
『お刺身は避けた方がいい』『水銀の含有量が多い魚は気を付ける』とお伝えしましたが、魚介類全般を摂取しない方がいいということではありません。
むしろ魚介類には、良質なたんぱく質やEPA・DHAなどの多価不飽和脂肪酸、タウリン、カルシウム、鉄分などの栄養成分が多く含まれており、妊娠中の栄養状態の維持のみならず、胎児の成長発達にも必要不可欠です。
最近は、魚に含まれるω3系多価不飽和脂肪酸の効果が注目されてきています。
ω3の摂取量が増えると、妊娠期・産後の抑うつが減るという報告があります。
ω3は体内で合成することが出来ませんので、効率よく体内に取り込むためには、魚介類の摂取が必要です。
注意すべき点には注意しながら、妊娠中も積極的に魚介類を食事に取り入れてもらえたらと思います。