出産する病院の選び方
近年、無痛分娩を希望される女性が増え、無痛分娩を行う施設はどんどん増えています。その為、厚生労働省のウェブサイトに掲載されている施設一覧は、ごく一部に過ぎません。
出産は、一生で何回かしかない大きなライフイベントです。自分と赤ちゃんをどこの施設に任せるのかは、重大な決断です。
そんな重大な決断でありながら、分娩場所をゆっくり悩むことが出来ない現状があります。人気な病院ですと、少なくとも妊娠8週には分娩予約を取らないと埋まってしまうところもあります。妊娠8週までにとなれば、妊娠が分かってから1か月もありません。
本来であれば、自分が希望するバースプラン(出産計画)をゆっくり考えた上で、それに合った施設にすることが理想ですが、妊娠して1か月で自分のバースプランを鮮明に描くのは、なかなか出来ることではありません。
そこで今回は、限られた時間の中で、どんな点に着目して分娩場所を決めればいいのかについて、詳しく解説していきたいと思います。
目次
1. 分娩を取り扱う施設の種類
(ア) 大学病院
〇〇大学付属病院と書いてあるような病院のことを言います。多くの診療科がそろっており、最先端の治療が行われています。教育研究機関としての役割もあるため、研修医や学生の出入りが多いのも特徴です。大学病院なら何があっても安心と思われている方も多いと思います。ただし、大学病院だからと言って、必ずどんな状況になっても自院で対応できるということではないので、注意が必要です。NICU(新生児集中治療室)がないところもあり、状況によっては他の病院に搬送が必要です。
大学病院の外来は2-3時間待つイメージがある方も多いと思いますが、最近はセミオープンシステム(後述します)を導入しているところも多いため、妊婦健診で毎回長時間待たなければならないというデメリットは解消されてきています。
(イ) 総合病院
産婦人科の他にも多数の診療科がそろっており、大学病院と同様安心感があります。大学病院と違い、学生の出入りはそこまで多くない印象です。NICUの有無、無痛分娩の可否はそれぞれ違いがあるため、確認が必要です。大学病院の方が何でも対応出来そうという印象を持たれている方も多いかと思いますが、周産期センターと呼ばれるようなところも沢山あり、大学病院と同等もしくはそれ以上に何でも対応できる場合もあります。
(ウ) 個人病院
産婦人科がメインの病院です。分娩件数や施設の大きさには、かなりばらつきがあります。大学病院や総合病院とは違い、研修医や学生の出入りはあまりありません。個人病院の場合には、NICUを併設している場合はほとんどなく、新生児科医が常駐していることは少ないです。その為、分娩直後赤ちゃんに何か異常があった場合には、その場にいる産婦人科医や助産師が対応し、必要な場合には、他の病院に搬送になることもあります。また、NICUがないため、早産になりそうな場合には、分娩前に大学病院や総合病院に搬送になります。
(エ) 助産院
助産師が、妊娠から分娩までをサポートしてくれるところです。医師の介入はないため、医療行為を行うことは基本的に出来ません。ただし、どこかの病院と提携していて、何かあった場合にはフォローしてもらうことが多いです。助産師が妊娠中から親身になってフォローしてくれるため、自然に近い形で出産したいという想いが強い方には、一つの選択肢になります。ただし赤ちゃんや自分に何かあったときに、すぐに医師に対応してもらえないというリスクを十分に考えた上で、選択する必要があります。
2.最近よく聞くセミオープンシステムとは
セミオープンシステムとは、ローリスクで妊娠経過が順調であれば妊娠32週くらいまでの妊婦健診を近くの産婦人科クリニックで行う制度です。妊娠34週以降の妊婦健診および分娩は、大学病院や総合病院で行います。
このシステムを利用することで、分娩は設備が整っていて安心な大学病院や総合病院で行うことが出来、妊婦健診は自宅の近くの産婦人科で待ち時間少なく、費用も抑えて行うことが出来ます。
これが増えている背景には、大学病院や総合病院が分娩予定の妊婦健診をすべて自院で行おうとすると、人手が足りなくなってしまうということがあります。その為、ローリスクで妊娠経過が順調の妊婦さんは、近隣のクリニックに妊婦健診をお願いし、その分ハイリスクの方の診療や分娩にマンパワーを投入しているのです。
大学病院で毎回2-3時間待つよりは、近所の産婦人科クリニックで妊婦健診はやって欲しいという方も多く、医療者・妊婦の両者にとってメリットのある制度と言えます。
同じようにセミオープンを導入している病院でも、ローリスクはセミオープンでお願いしますというところもあれば、セミオープンでも自院での妊婦健診でもどちらでもいいですよというところもあるので、事前に確認が必要です。
3.里帰り分娩の場合はどこで妊婦健診すればいいか
里帰り分娩を希望される場合には、里帰りするまでの期間は、家の近くで妊婦健診をしてもらう必要があります。自宅の近くの産婦人科クリニックで妊婦健診をしてもらう場合には、何か異常が見つかって里帰りができなくなった場合に、診てもらえる病院が必要です。里帰り出来るだろうからという理由で、あまり考えずに病院選びをしてしまうこともありますが、里帰り出来なくなった場合には、そこで分娩することになりますので、費用面も含め、確認しておく必要があります。
総合病院や個人病院でも、里帰り出産予定の方の妊婦健診を受け入れているところもあります。
4.出産する病院の選び方のポイント(7選)
(1)ハイリスク要因はあるか
すべての方がどの病院でも選択できるという訳ではありません。ハイリスク要因がある場合には、大学病院や総合病院でないと対応できない場合もあります。その為、まずは自分にリスクがあるのかを知る必要があります。わからない場合は、通院中の産婦人科で、確認してみましょう。
(2)家からの近さ(車で30分以内が目安)
分娩する場所が家から近いかどうかは、大切な要素です。妊娠中は急に受診が必要になることがあり、その時に家から遠いと、受診までに時間がかかってしまいます。目安は車で30分以内でしょう。
(3)里帰り分娩希望か
里帰り分娩希望の場合には、実家の近くの病院を探す必要があり、探すエリアが異なってくるので、早めに決めた方がいいでしょう。
(4)無痛分娩希望か
無痛分娩が可能な病院は、ここ最近どんどん増えています。以前はやっていなかったのに、今はやっているということも多々あります。その為、希望の病院が無痛分娩をやっているかどうかは、適宜ホームページなどで最新情報を確認するようにしましょう。
同じように無痛分娩をやっているところでも、体制には違いがあります。麻酔科医が常駐しているところもあれば、産婦人科医が疼痛管理を行っているところもあります。基本的には、麻酔科医がいるところの方が安心です。
また、無痛分娩を開始したばかりの病院ですと、経産婦さんのみ行っていますというところや、計画分娩のみ対応していますというところもあります。どの時間帯にお産になっても無痛分娩がしたいという場合や、自然に陣痛が来てから、麻酔を開始したいという場合には、出来る施設が限られてきます。希望する無痛分娩のスタイルを考えた上で、施設を選択する必要があります。
(5)NICUのある病院が希望か
NICUとは、新生児集中治療室のことを言います。低出生体重児や、疾患のある新生児を治療するための施設です。NICUがない病院の場合、早産になる可能性が高くなった時点で、NICUのある病院に搬送になります。また、出産後赤ちゃんに何か問題があった場合には、赤ちゃんのみがNICUのある病院に搬送になることもあります。必ずしもNICUのある病院で出産する必要はありませんが、早産になっても同じ病院で診て欲しいという場合には、NICUのある病院をおすすめします。
(6)個室希望か
個室の数は、病院によって大きく異なります。個室しかありませんというところもあれば、個室は少なく、大部屋がメインですというところもあります。また、個室を分娩予約の段階から確約出来るところもあれば、個室は確約できないというところもあります。どうしても個室がいいという強い希望があれば、個室を確約出来る施設をおすすめします。
(7)食事・産後ケア重視か
食事や産後ケアは、個人病院の方が充実している傾向にあります。大学病院や総合病院では、お祝い膳のような形で、何食かは特別食が出たりしますが、基本的には他の科の患者さんと同じ食事が出ることが多いです。一方で、個人病院では、入院されているほとんどの方が産後ですので、産後の方向けのメニューになっています。また、産後にマッサージやエステが無料で受けられたりと、独自の試みがいろいろとなされていることも多いです。そういったところを重視したいという方は、個人病院で自分の希望に合ったところを探してみてはいかがでしょうか。
5.まとめ
今回は限られた時間の中で、どんな点に着目して分娩施設を決めればいいかについて、書きました。理想のバースプランを考えるというのはとても大切なことです。ただし、理想の形になるとは限らないということも、覚えておいて下さい。
『ああしたい』『こうしたい』想いは沢山あると思います。しかし、無痛分娩を希望していたけど、帝王切開になってしまった。途中で他の病院に搬送になってしまったなど、希望通りにならないこともあります。希望通りに行くことがベストではありますが、一番大切なのは、お母さんが安全にお産が出来ることであり、赤ちゃんが無事に生まれてくれることです。
今お腹の中に宿ってくれた新しい命が、無事に産まれてくることを祈っています。
皆さんの分娩施設選びの参考になれば幸いです。